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運営事業化の視点

1.水上都市建設の概略プロセス

本構想の建設プロセスは、水域を造成するプロセスと浮体基礎の建造、曳航、設置並びに浮体基礎上での建設作業の2つに分けることができる。基本的に、前者は公共工事、後者は民間工事(SPC又はSPE:事業を行う特別な会社)と見なせる。まず、前者については、現在の土地の買い付け、既存建物の解体、撤去があり、その後に土地の掘削工事がある。さらに、掘削後の土地の法面の保護と共に、掘削土の再配置(運搬を伴う)、既存の都市インフラ(水道、下水道、電気、ガス、通信ほか)に対する工事がある。その次の段階としては、既存堤防に対する工事と水の引き込みがある。次に、水域が造成された後、浮体基礎を支える支柱の打設、浮体基礎の設置そして浮体基礎上の建物の建設等が民間プロジェクトとして進められる。その後、都市インフラの工事とつづくことになる。

  1. 公共工事
    ① 水域の造成関連費用(掘削、護岸建設、水流調節設備費用など)
    ② 道路・橋梁・水門・ロックゲート建設費用
    ③ 都市インフラ工事等
  2. 受益者工事(SPE : Special Purpose Entity)
    ① 浮体ユニット建造費用(曳航・設置、支柱建設費等を含む)
    ② 浮体ユニット上の建築物建設費
    ③ 仮設構築物工事

2.江東区の水上都市建設事業案(江東区計画2のケース)

(1)浮体ユニット建造プロセスと建築工事

基本的に、浮体ユニット建造は、造船所が設計・建造を行い、浮体内設備:バラスト水設備費、係留装置(ゴムフェンダー)ほかについても造船所の仕事である。また、浮体ユニット建造期間であるが、同じ造船所のドックで複数建造することや複数の造船所にての建造も可能で工期の短縮が図れることが挙げられる。他方、浮体ユニット上の建築物の建設に関しては、別途、建設会社(ゼネコン)の設計・施工となる。

江東区計画2の事業では、想定地を東京都江東区とし、都市再開発並びに水域造成事業(水域面積185,000㎡)を考える。本水域に、標準浮体ユニット(全高4.5m、喫水3.0m、100m×25m:排水量約7,500t)を44ユニット繋ぎ合せて住宅地域を形成する。標準浮体ユニット上は、最大積載可能重量(建物合計5,450tの重量)から戸建住宅12軒と高層集合住宅30戸(5~7階建で一部1階店舗)を考えている(RC造の平均的な単位床重量を載荷重量(1,800kg/㎡) を考慮して1.48t/㎡を想定)。標準浮体ユニットの建設費用はとしては、合計で1,204.7百万円を見込むので、44ユニットで構成される本構想では合計約530億円となる。

造成水域での標準浮体ユニットの結合状態 浮体ユニット上の建築物の建設後の状態
Fig.1 造成水域での標準浮体ユニットの結合状態 Fig.2 浮体ユニット上の建築物の建設後の状態
(2)水域造成関連の事業

造成される水域面積を185,000㎡、又水深を5mとして、掘削後の地盤面が-7mTPとすると、掘削する地面の深さが平均4.6mとなるので、掘削される土量は、約851,000?である(これらの残土は、主として周辺のスーパー堤防の建設に用いるものとする)。また、垂直の護岸壁は、鋼製矢板の使用を中心と考えるが、全長は2,217mである。一方、付帯設備関連としては、橋梁(浮体間が6か所、その他が4か所の計10か所)の建設、造成水域への導水管設置工事、軸流ポンプ関連設置工事、ロックゲート等の水門、水質浄化装置、太陽光パネル関連そして都市インフラ接合工事などがあげられる。<他に、浮体ユニットを支えるコンクリート製の123本の杭(直径:1.5m、全長6.0m)が建設工事としてあるが、これは、公共工事から除外するものとする。>

次に、土地の掘削費用等の試算であるが、仮の計算では約851,000?の重量は、約200万tなので、10tダンプトラックでは、延20万台が必要となる。1日8時間で8往復、30台のダンプトラックが8往復して延1日240台として、850日(2年半)が工事期間となる。運搬のダンプトラックの他にも土地を掘削するブルトーザー(D30クラス)やバックホー(0.4?クラス)が必要となるが、これらをそれぞれ20台と考えると、全部で540万円/日の費用が必要となることが予想される。これを850日間リースし、作業するとリース料で計45.9億円となる。他に、人件費や諸経費(事務所経費等で総費用の25%程度)が必要となるが、人件費は、ダンプ及び重機運転労務費、現場代理人、補助作業員、交通誘導員など100名にも昇る人数が必要となろうが、今のところ、これら建設工事費用の詳細な算定はしていない。

最後に、江東区計画2の場合の費用分担は以下のとおりである。

事業主体 自治体:水域使用料等で土地買収費、水域造成費等を資金回収する。
● 水域用土地買収費 約462.5億円 ← 路線価25万円×185,000㎡
● 水域造成費 約60.0億円
● 新荒川水門の建設費 約80.0億円
 ・想定水域面積:185,000㎡(水域面積が減ると買収費用、浮体建造費も減少)
運営主体 SPC又はSPE(PFI方式):浮体上の住宅を賃貸とし、建設費等を回収。
● 浮体建造費(曳航費用含まず) 約51,910万円(1標準浮体ユニット)×44
● 建物建築費 約48,560万円(1標準浮体ユニット)×44
● 鋼管杭費用(打設工事含む) 約6,000万円(1標準浮体ユニット)×44
● インフラ設備費(消化設備、防火被覆、上下水配管、バラスト給排水) 
 → 14,000万円(1標準浮体ユニット)
実施場所 東京都江東区東砂町付近(総敷地面積:185,000㎡)

注:上記の水域用土地改修費、約462.5億円については、SPE側、自治体側どちらの負担になるかについては、検討を要する。

自治体事業 計画地の選定、調査水門の建設 地面の掘削
鋼管杭打ち
矢板打ち
水域化工事
水中ポンプ
土砂運搬
既存の都市インフラとの接続
SPE事業 計画地の買収 メガフロート浮体ユニットの建造 浮体の曳航及び設置 浮体上の建築物の建設

3.江東区計画1の場合の公共工事と建設計画

(1)水域の造成

水域の造成については、建設期間が長期に渡るため、いくつかのゾーンに分けて順番に造成る必要がある。第1期工事として、例えば、水域Bのゾーンを造成する場合を考える(必ずしも、水域Bを第1期工事にする必要はない)。この場合、内陸側の護岸の建設が先で、それから土の掘削に入る。掘削が終了した段階で、荒川に通じる水門建設と水域Bの北側に浮体ユニットを引き込むための仮設のロックゲートの建設を行う。水門とロックゲートが完成すると、荒川から導水して水を満たす。さらに、必要に応じて、後にオフィス群、工場群並びにレジャー施設群の建築を順次、建設する。南側の水域B(地下鉄東西線沿い)では、道路建設と荒川への排水機場も同時並行して建設される。第1期工事で掘削される土の量は、約605万㎥である(ただし、掘り出された残土は全て周辺にて利用することを前提とする)。

次に第2期工事であるが、水域Aの一番北側を想定する。水が満たされてもこれより南側に行かないように水深6m(TP-8m)の水域の南側(左図で一番上の一点鎖線)に仮設の矢板工法による壁を東西に設置する。その後、水深が最も深い最も北側の水域(水深10m;TP-12m)から掘削を開始し、水深6m(TP-8m)の水域まで掘り進むと同時に陸側の護岸の建設を行う。この工事と同時並行して、荒川から水を引き込む北側の導水管の建設も行う。この工事の最後は仮設ロックゲートとの結合・調整で水域Bと繋げることで浮体ユニットが水域Aに運び込むことが可能となる。そして、第2期工事の水域Aに水が導水され、浮体ユニットが次々にこの水域に運び込まれ、所定の場所に設置される。なお第2期工事で掘削される土の量は、約191万㎥である。

第3期工事は、清洲橋通り付近までで、第2期工事と同様に南側の境界で東西に矢板工事を施して掘削工事、護岸建設工事を実施し、仮設ロックゲートより浮体ユニットを運びこみ、都市の建設を行う。第3期工事では、道路及び道路を繋ぐ橋梁の建設も行う。第4期工事は、葛西橋通りまでの区間で、第3期工事の続きであるが、浮体ユニットを引き込むための最終的なロックゲートの建設を行う(このロックゲートの完成で北側に建設した仮設ロックゲートは取り壊す)。さらにその南側の水域を造成する第5期工事も同様であるが、第1期工事で建設された南側の水域Bと接する境界に遊歩道(地面下に6機の排水ポンプを備える排水機場)を先に建設しておく。なお第3期、第4期および第5期工事で掘削される土の量は、それぞれ約134万㎥、約99万㎥および約162万㎥である。

ここでは、造成された水域の淵は、鋼管矢板等を用いて垂直な構造とすることを仮定しているが、造成水域の淵は傾斜とすることで、経済的にコストを削減することができる。このように傾斜した水域の淵は、水生動植物の生息が可能となり自然に優しい構造となる。

水域造成工事の見取り図
Fig.3 水域造成工事の見取り図

(2) 土木工事の概要(掘削工事、各種建設工事:護岸、水門など)

土木工事は、①水域の造成関連工事(掘削、護岸建設など)、②道路建設工事、③橋梁建設工事、④水門建設工事、⑤ロックゲートの建設、⑥水流調節設備建設、⑦その他に別れる。しかし、本研究では、工事期間および工事費用の検討は、時間の関係で行なっていない。なお水域の造成関連工事を5期に分けると概要は以下の様になる。

第1期工事 第2期工事 第3期工事 第4期工事 第5期工事
掘削面積(㎡) 336,172. 182,219. 223,873. 165,263. 270,515.
掘削土(㎥) 6,051,096. 1,941,260. 1,343,235. 991,575. 1,623,090.
護岸建設(m) 5,270. 2,670. 1,010. 720. 800.
道路建設(m) 490. ―― 500.+540. 350.+620.他 400.他
橋梁建設(m) 220. (浮体間の橋) (浮体間の橋) ―― (浮体間の橋)
水門建設 [荒川を結ぶ
水門]
ロックゲート
建設
(仮設
ロックゲート)
(大型
ロックゲート)
(南側
ロックゲート)
導水パイプ施設 ―― 1,000.m+380.m ―― 640.m ――
導水ポンプ設置 ―― 80t/s6機 ―― 80t/s4機 ――
排水機場建設 [荒川側
排水機場]
[水域間
排水機場]
排水ポンプ設置 400t/s1機 ―― ―― ―― 80t/s6機

4.事業化プロセスの概要

(1)水上都市市場と証券化そしてリスクプレミアム

わが国では、バブル崩壊以降、不動産の価格が暴落し、いわゆる土地神話が消滅したことはよく知られる。その後、不動産を所有して将来の高値を期待する考え方(キャピタルゲイン)から不動産の資産から如何に安定的に利益を獲得(インカムゲイン)するかといったことが中心となっている。最近の不動産ビジネスは、不動産の証券化を基にして、第一は分譲マンションを主体とするビジネスモデル、第二は、不動産仲介のビジネス、第三が不動産投資ビジネスで不動産を投資対象として得られる利益、キャッシュフローを最大限にするものなど多彩なビジネスが出来てきた。個人の地主(土地所有者)においても駐車場やアパートを建てて収入を得ることを第一に考え、将来値上がりを期待する土地所有にこだわらない。その一つが専門家に土地を貸し、運用してもらうことで、利益を得ることである(所有と経営の分離)。このように、不動産の証券化は、不動産投資のツールとして機能するが、土地の保有や地価の上昇にこだわるのでなく、不動産ビジネスを通じて自ら付加価値を創造する点に特徴がある。

一般に、通常の不動産の場合、多くのリスクが顕在化する。例えば、賃料の低下や空室率がその代表であるが、土壌汚染のようなケース、また低い土地の場合、洪水リスクがあり、また堤防の脇の土地は、堤防決壊、その他、地震による倒壊リスク、津波リスク、火災リスク、液状化リスクなど、挙げるときりがない。このようなリスクに対しては、不動産の投資のリターンからリスクの影響を考慮に入れて計算する、いわゆるリスクプレミアムとしてリターンを減じることが通例である。通常の不動産と比較すると、水上都市は、自然災害リスクが極めて少ないだけでなく、逆に水域環境の魅力、都市のヒートアイランド現象による高気温の除去での快適さ等から、いわゆるバリューアップが図れ、付加価値の創造により資産価値が向上する期待が持てる。すなわち、水上都市は、資産価値の向上によるキャピタルゲインと住みたい住民が多くいることによるインカムゲインを併せもつ美味しい選択といえる。また、将来の都市の状況で、水上都市の機能も変化する可能性もあり、その場合、リニューアル、コンバージョンといったことが、容易にできる利点もあり、不動産資産としては、魅力のある投資になるような期待がもてることを特に強調しておきたい。

(2)水上都市の証券化の基本スキーム案

次に、江東区水上都市の事業化ビジネスのプロセスについて概略をまとめると以下のようになる。

  1. まず、水上都市に使用する土地の買取りであるが、公共事業として実施する場合は地方自治体が、もしくは特別目的事業体SPE(Special Purpose Entity)が、地元の土地所有者(オリジネーター)から土地を購入又は貸借契約により借り受ける(実物不動産の取得)。
  2. 浮体ユニット建造、建築物の建設等に必要なSPEの原資は、銀行、信託銀行、ノンバンクなど金融機関のノンリコースローンによる融資を活用することとなる。SPEは、実物不動産を購入するための資金調達において、証券を発行するか金融機関からの借り入れ(ノンリコースローン)によって調達する。
  3. 次に、自治体、国の許可を得て水域の造成、河川工事の許可などが行われる。基本的には、水域造成、堤防関連の土木工事は、自治体の事業としてとり行われる。
  4. 造成水域に水が張られた状態で、浮体ユニットを支持するコンクリート製の支柱がマリコンにより設置される。
  5. 同時に、ディベロッパー(SPE側)は、造船所に水上都市の標準浮体ユニットの建造の請負契約とそれに基づく発注を行い、造船会社は、造船所のドックから標準浮体ユニットを現地に曳航する。現地では、造船会社によって標準浮体ユニットどうしの接合が行われ、浮体ユニットのバラスト水の調整により、浮体ユニットがコンクリート製の支柱に固定される。
  6. さらに、ディベロッパー(SPE側)は、ゼネコンとの請負契約と発注を行い、ゼネコンは、浮体ユニット上の建築物の設計作業の後、建築物の建設がスタートしていくことになる。
  7. 建築物の完成後、実際にプロパティマネジメントを行う不動産管理会社(SPE側)が建物を分譲販売するか、賃貸形式として事業を行うかを決め、利用者を募集し、売買契約あるいは、賃貸契約を締結する。
  8. 最後に、SPE側は、水上都市が生み出すキャッシュフローを使って、金融機関に金利を、又、証券を買った投資家(機関投資家、一般企業、ファンド、個人など)と土地所有者に年間配当金(分配金)を支払う。
  9. 造成水域の利用に当たって、SPE側は地方自治体に対し、水域利用料を固定資産税等と共に支払う。

注:関東圏では、持ち家の比率が55%(全国では61%)、また賃貸の比率が41%(全国では37%)ということで、賃貸の比率が多い。

事業化プロセスのフロー
Fig.4 事業化プロセスのフロー

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