東京都江東区は工業用に大量の地下水を汲み上げた結果、海抜ゼロメートル地帯となっており、現在、土地面積の1/4が海面下2mです。また人口が集中し、密集した建物で雑多な都市空間となっているため、大地震の際には火災などで多くの人命が失われることが危惧されています。また一度、集中豪雨やまた河川(荒川)の氾濫がおこると住民への甚大な被害、巨額の経済損失が生まれることが懸念されます。この荒川に面したゼロメートル地帯の低い場所(東京江東区)を想定計画地とし、水域計画を行います。まず江東区東砂の一部の敷地を5m程掘削し、荒川の水を引き込んで水域を造成、その上に軟着底浮体方式の人工基礎地盤を活用した都市の再開発を提案するものです。
Fig.1 江東区水上都市の位置
本構想で都市の地盤を水域化することは、溜池としての機能から、それ自体でも洪水対策となります。水域造成の目的を改めて纏めてみますと以下のようになります。
①荒川の氾濫(高潮、津波、破堤、将来の海面上昇等による)の洪水対策、
②気候変動による局地的豪雨から街を守ること(地盤の低い場所の救済)、
③都市の熱負荷の低減による都市環境の改善(ヒートアイランド対策)、
④自動車交通に代わる水運・水上交通の復活、
⑤地下に水を浸透させることで水循環を回復(充分な地下水を保水し渇水時に利用)、
⑥水生生物を保護させるビオトープの設置(自然水域環境の保全)、
⑦建設時は勿論、水上都市が炭酸ガスの排出を抑える持続可能な都市で浮体基礎は、何回も再利用可能なこと。また浮体基礎を移動させることで時代の変化に対応できる都市に再編成可能なことなどが挙げられます。
Fig.2 水域内の水流の方向
他にも、重要な点として巨大地震に対しても水上に全ての建物が水上に浮かんでいることで直接には地震力を受けず、揺れを緩和できるので安全な都市の実現が期待できます。また、災害後に水の確保(飲料水のみならず生活水の確保)が可能なことや、火災消火のための十分な水を確保できるメリットもあります。
本構想では、造成する水域を2つの種類に分けています。2つの水域に分断することにより2段構えでの洪水対策が可能となります。
まず、内陸側に位置する水域A(0.85 k㎡)は、荒川や海から完全に遮断されている閉鎖水域です。現在、江東区の地盤面の低い東側の地域にある河川の水面は荒川の平均水位より1m程低く設定されております。水域Aは、この河川(小名木川を含む)に繋げられる水域となるように計画しております。つまり、小名木川と繋げることで、広範囲な都市において潮位の影響を受けずに自由に人・物の輸送を可能となります。
もう1つの水域(水域B;0.34 k㎡)は、荒川と隣接する細長い逆L字型の水域で、荒川とは現在の堤防で区切られますので、船の行き来きには水門(台風などの非常時以外は開いている)を介して荒川と結びます。造成水域Bの水位は潮位の影響を直接受けますが、荒川や海とは、ロックゲートを介さずに自由に船が行き来きできるメリットがあります。水域Aが、江東区内周辺の地盤面の低い土地の雨水を引き受けるのに対し、水域Bは、荒川が氾濫するような危険な状態でも水域Aに直接的な影響を防ぐ役割があるのです。
一方、水域Aの水質汚染を防ぐために荒川から導水して人工的に水流をつくることを考えます。まず、荒川から地下に埋めた導水管で最も北側に位置する造成水域から水を流します。水域Aの水は最終的に最も南側にある遊歩道(水域Aと水域Bの境界にある仕切り壁の上に設置される)の地下に設置された5台の軸流ポンプで水域Bに強制的に排水されます。なお、水域Bは、荒川や東京湾に直結し、海面と連動しているのでこの排水による水域Bの水面の上昇はほとんどありません。また、軸流ポンプによる水域Bへの強制排水量は、気候によっても変化するようにします。
計画地の都市計画の規模は、南北に約2km、東西に0.5km~1kmの範囲で面積は、約1.25平方km(125ha)、人口約2.75万人(1.26万世帯、223.6人/ha)です。これを中高層住宅を中心とした中層住宅地(約560人/ha)にし、またオープンスペースとしての水域を都市計画面積の半分程度(62.5万㎡;22.7㎡/人)とすることを考えております。一方、計画人口を現在の2.7~3万人程度としますと、小学校を基本とする近隣住区(8千人~1万人)の3倍程度となり、小学校3つ、中学校1つを備える中規模都市となります。 居住空間以外にも、多様な都市施設を置くことでさらに活力ある都市を期待しております。具体的には、①居住に必要な商業施設群、②集約させた町工場の工業地、③荒川沿いのアクアリゾート空間、④オフィスビル群など多様な都市の機能がある計画としています。又都市計画の対象となる土地を水域化することで、水の恩恵が得られ、心豊かで安らげる水上都市とすることを考えました。その一つが水運・水上交通を復活させることで、道路混雑の緩和が可能となります。すなわち、本計画でできた水路は、北は小名木川と繋がり、南は、計画地の玄関口である地下鉄東西線南砂町駅付近にある商業施設区域と結びます。計画地の最も北側に位置する小名木川は、西に扇橋閘門を介して隅田川と、また東は、荒川ロックゲートを介して荒川と繋がっていることから、水上バスの運行の幅が広がり極めて便利な交通手段となります。また、この水路の南側にある閘門(ロックゲート)を通って南下すると、最終的には新砂水門を出て東京湾に出ることもできます。
Fig.3 都市計画の施設群
Fig.4 江東区水上都市の鳥瞰図
[参考文献]
T. Nakajima and M.Umeyama,” Water City As Solution To Escalating Sea Level Rise In Lower-lying Land Areas”, Oceans’13, 2013MTS/ IEEE International Symposium, San Diego, California, September 23-26, 2013