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自然災害に強い都市へ

浮体がその威力を発揮したのは、東日本大震災の際の大津波です。宮城県塩釜港にある「マリンゲート塩釜」の浮体ポンツーンは、当時、3、4メートルの津波が来襲した際、ゆっくりと海面上7.5メートルのポールに沿って上昇し、津波が去った後、何もなかったかのように定位置に戻りました。この光景はYoutubeの動画で公開され、如何に浮体がしなやかに巨大な津波の力を削ぐかが示され、多くの人を大変驚かせました。浮体ポンツーンのサイズは、全長51.5メートル、全幅9メートルが4本繋がっているもので全長22メートルにも及びます(水深は、4.5メートルであった)。動画の映像からは、約90秒で3.4メートルの高さに達していることから、津波の水平速度は速いが上下方向は比較的にゆっくりであることが読み取れました。津波が海から陸上に押し寄せたときは、水塊が水平方向に瞬時に広がり、そのため極めて速い水平方向への速度となります。しかし、津波が陸に上がる前の水深が確保された水域においては、水塊は、水平方向と共に垂直方向にも持ち上がり、エネルギーが3次元的に分散されるために、水流速度は、遡上した陸上での水流速度と比べると小さいのです。また、津波の上下方向の速度は水平方向と比べるとかなり遅いことが動画からも理解できた訳で、浮体により自然の水理学原理を利用することで、構造物が津波の威力から逃れられるヒントが得られたといえます。

一般に津波の威力が恐れられますが、それは津波が陸上に遡上する場合のことで、特に土地に定着している構築物に対し巨大な水平力となって襲いかかるのです。それは、構築物自身に加わる津波の総水平力を構造物が全て受け止めるためです。さらに陸上の構築物では浮力に勝てず、横倒しになったり、流されたりするのです。また、多くの構築物が存在することで津波の行く手が封じられ、構築物間の狭い場所を通り抜けることにより、速度が増し、破壊的な水平力となるのです(ベルヌーイの法則の原理)。一方、浮体は水流を堰き止めることなく、ただ上部に移動することでこの水平力をかわせるので、浮体への水平力は極めて小さくなります。漂流を防ぐために何本かのポールで津波の水平力を支えてさえいれば、浮体は横方向には移動せずに難を逃れることを「マリンゲート塩釜」の動画は教えています。

2005年のハリケーンカトリーナの災害や東日本大震災の大津波の被害は、自然災害、特に水害に対し、巨大な土木構造物に頼ることが安全といえないのではないかとの疑問が世界中の専門家の間に出てきました。すなわち、地球規模の温暖化による海面上昇や自然災害の激化等により、従来の巨大な堤防などの土木建築物が安心できないことが明らかになったのです。実は、国土の3分の2が海面下の国、オランダでも、既にこのことに気づき、世界でも第一級の技術を誇るオランダの大型堤防に頼りきることを止め、自然の猛威をうまく交わすような方策に方向転換しつつあります。その適応策の一つに浮体を取り入れようとしているのです。

一方、我が国は、水害の他にも大地震という自然の脅威が存在します。大地震が多発する我が国の建築物は昔からその対応、工夫がなされていますが、その代表が五重塔です。中心部に木造の巨大な柱を配し、地震水平力を受け流す柔構造であり、この考え方で現代の超高層時代の幕開けである霞が関ビルが誕生しました。一般には、地震に対しては耐震構造が建築構造システムの中心ですが、最近は、さらに制震構造、免震構造が加わり、阪神淡路大震災の経験からも現在の地震に対する技術の信頼性が極めて高いことが証明されました。しかし、山間の土地や、また液状化の危険が危惧される埋め立て地に建つ建造物は大変危険です。これに対し、水に浮かぶ浮体は基本的には免震構造そのものであって大地震に対しても極めて優れる構造システムであることを改めて我々は認識する必要があります。

浮体構造の断面図

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